産業ネットワークからSafety通信へ
産業用機器においては、かねてよりネットワーク化への対応が進められてきた。その中身を見ると、2018年には産業用イーサネットが、それまで主流であったフィールドバスをシェアで逆転。2019年にはその差がさらに拡大することが予想され、今後、産業用イーサネットが産業用機器のネットワークの標準になることは確実な情勢となっている。次に予想される動きは、欧州を起点に世界に広まりつつある機能安全に必要な、Safety通信への対応である。しかし、産業用イーサネットやSafety通信の実装には専門知識が求められ、難易度は高い。そのため「自社でやるべきでない部分」として、社外のリソースや市販品を活用して対応することが一般的となっている。自社対応の困難さについては次Partでより詳細に触れることとし、本Partではまず、産業ネットワーク/Safety通信の業界動向および必要性について解説する。
産業分野におけるネットワークとイーサネットの利用拡大
かつてスタンドアロンで使用されていた産業用機器は、1980年代半ばから、設備の規模拡大に伴ってネットワーク化が始まった。その後は、各ベンダーが独自の通信方式を開発し推進する時代が続いた。そして、異なるベンダー機器間での相互接続に対する要望の高まりを背景に、現在では、仕様が標準化され公開されているオープンネットワークが広く普及している。
並行して、イーサネットの産業用途への適用も進んだ。イーサネットは当初、産業用途としては、定時応答性やコスト面で課題を抱えていた。しかし、インターネット/イントラネットの基盤技術の一つとして普及し、技術開発が進展するにつれて、それらの課題は解消された。現在では、産業用途でのイーサネットの利用(Industrial Ethernet)は一般的となり、リアルタイム性が求められる制御にも利用されている。
産業用ネットワーク市場2019年シェア予測
ブラックチャネルアプローチによる効率的なSafety通信の登場
一方で、産業分野のネットワーク化の進展に伴い、ネットワーク化された生産現場での安全確保が新たな課題となった。物理的に離れた位置にある様々な機器がつながったことで、それらを連携させて安全を確保する必要が生じたのである。初期の小規模ネットワークにおいては、関連する機器は安全規格に準拠した専用の通信線で接続されていた。他の一般の通信からの影響を回避するためである。このような手法は、ホワイトチャネルアプローチと呼ばれる。しかし、ネットワークの規模が拡大して機器数が増加すると、安全機能に必要な専用線の数も急激に増加することになった。それでは安全機能の構築と管理に膨大な工数がかかってしまうことになる。
そこで導入されたのが、ブラックチャネルアプローチと呼ばれる考え方である。ブラックチャネルアプローチでは専用線は使わずに、通常の通信線上で安全機能用の通信も行われる。このとき、安全機能に求められる信頼性を確保するために、「送信側と受信側は常に一定周期で通信する」「受信側はデータの正常性を厳格にチェックする」「周期通信が途絶えた場合、あるいは、データの正常性が確認できない場合は、異常と判断して安全上必要な措置をとる」といった様々な工夫がなされている。
機能安全の普及で高まるSafety通信のニーズ
ところで、安全をどのように実現するかについては、産業革命から現代に至るまで研究と実践が続けられている。現在ではその成果の一つとして、機能安全の考え方が浸透しつつあり、機能安全に基づく製品開発や生産設備の構築が盛んに行われている。また、安全確保のためだけではなく、生産性向上の手段として、機能安全を採用する事例も増えている。例えば、機能安全対応ロボットを導入し、人とロボットが隔離フェンスなしで協働することで、作業効率の向上・敷地の利用率向上を実現した事例などが多数報告されている。
機能安全の最も基本的な規格であるIEC 61508では、機能安全に基づく設計開発手法が示されている。その中で、機能安全における通信については「IEC 61784-3または IEC 62280シリーズ(鉄道信号システムの通信の安全性に関する規格)に準拠すること」が求められている(IEC 61508-2,7.4.11.2)。IEC 61784-3は機能安全フィールドバスのための国際標準であり、その規定を満たした様々な通信方式としてIEC 61784-3は、CIP Safety、PROFIsafe、CC-Link Safety、FSoEなどをSafety通信プロトコルとして列挙している。
つまり、IEC 61508に準拠した機能安全関連システムでは、通信に、IEC 61784-3に準拠したSafety通信プロトコルを採用する必要がある、ということになる。
Safety通信プロトコルの選択
各Safety通信プロトコルは、IEC 61784-3の要求事項に基づき仕様が設計されているため、基本的な機能に大きな差異はない。ただし、通信周期などの面では、ブラックチャネル部に用いる通常の通信プロトコルによる制約を受ける場合がある。
既にネットワーク対応している設備や機器にSafety通信を導入する場合は、ブラックチャネルとなる通信プロトコルにあわせてSafety通信プロトコルを選択するのが一般的である。使用中の通信がEtherNet/IPであればCIP Safety、PROFINETであればPROFIsafe、といった具合である。一方、ネットワーク未対応の設備や機器にSafety通信を導入する場合、まずはその利用目的にあわせて通常の通信プロトコルを選択し、さらにそれにあわせてSafety通信のプロトコルを選択することになる。
Safety通信を実現するための現実解
afety通信は、安全機能の一部を担うに過ぎない。しかし、産業用ネットワークやSafety通信に関して知識や経験が十分でない状態で取り組むと、その概要や仕様を理解するだけでも大きな工数がかかる。そのうえ、通信プロトコル仕様に準拠していることを証明するためのコンフォーマンステスト受験や、機能安全認証取得のために必要な資料の整備などが必要になることを考慮すると、膨大な工数になることが予想される。
考えられる対策としては、(1) 市販品(通信モジュール、プロトコルソフトウェア)で対応できる部分は外部からの購入で対応する、(2) 産業用ネットワークに精通した外部のリソースを活用する、などがある。これらの対策を講じることで、限られた自社のリソースを、安全機能の核心部分に集中させることができるだろう。
市販品プロトコルを選択する際のポイント
市販品を選定する際には、いくつか注意すべきポイントがある。
a. 機能安全認証を取得している製品であること
市販品を自社製品に組み込む場合、最終的には自社製品として改めて機能安全認証を取得する必要がある。その時、導入した市販品が認証取得済みであれば、その部分については認証の手続きを簡略化できる。逆に認証を取得していない場合、市販品についても自ら安全性を証明する必要が生じてしまう。
b. 国内・海外のサポート体制が整っていること
日本国内で開発する際にスムーズにサポートを受けるには、国内でのサポート体制が整備されていることが必要になる。また、Safety通信の種類によっては、海外でコンフォーマンステストを受験することになる。海外でのサポート体制が整っている製品を選んでおけば、時差などを気にせず安心してテストに臨むことができる。
c. 多くのユーザーがコンフォーマンステスト合格・機能安全認証取得した実績があること
実績のない製品の場合、実際のテストで未知の課題が見つかる可能性がある。豊富な採用実績がある製品を選ぶことで、そのリスクを小さくすることができる。
d. 継続的にメンテナンスされていること
safety通信プロトコルの仕様は継続的に見直しされており、それに従いコンフォーマンステストの内容も変化している。継続的にメンテナンスされている製品でなければ、最新のコンフォーマンステストに合格できない可能性がある。
これらの条件を満たすものとして、例えば弊社(HMSインダストリアルネットワークス)では、CIP Safety、FSoEといったSafety通信のプロトコルソフトウェアを、IXXATブランドで展開している。弊社ソフトウェアは、「第三者認証機関による機能安全認証を取得済み」「国内に専任のサポート担当者を設置、コンフォーマンステスト受験時は海外の開発拠点から直接サポートが可能」「国内・海外で多くのユーザーがコンフォーマンステストに合格、機能安全認証取得した実績あり」「発売以降、継続的にメンテナンスを実施」というように、前述の条件を満たして提供を行っている。
執筆者紹介 HMSインダストリアルネットワークス株式会社 シニアエンジニア 伊東 仁
2014年から自社の機能安全関連製品の技術サポートに従事し、産業用ロボット、PLCなど様々な顧客機器のSafety通信実装をサポート。TÜV Rheinland FS Engineer certificate ホルダー。HMSは産業用ネットワークやIIoT分野の製品・サービスに特化し「Connecting Devices」をモットーに様々なソリューションを提供しております。産業用ネットワークに関するお悩みは下記にご相談ください。
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